セルライトの逆襲

 

桜井真理

 

 「すごいお腹だね」
私のまあるいお腹を感心して撫でる恋人。
「お腹の出ているのが、私なの」
愛しのダーリンの言葉に強がってみたけれど、苦しい開き直りである。

 子供の頃からポコンと出っ張ったお腹が気になっていた。三十歳を越えてから一回り大きくなった気がする。横向きに鏡の前に立つとおへその下がとんがっている。掌に合わせたかのようなカーブを描いていて、腹鼓を打つといい音がする。

 私は決して食べ過ぎてはいない(と思う)。スポーツが嫌い。腹筋が弱い。だからダイエットもエクササイズもできない。

 私の手許にはエステティックサロンのチラシがあった。「9等身スリムボディメイク」とはなんだか怪しげだが、通常料金一万八千円がお試し価格八千円だという。これだ!

 サロンは新宿島屋の中にあった。エステのサロンといえば大抵は雑居ビルの中にある。ここはかなり広く窓が大きくて、明るく開放的な雰囲気だ。

 まずはカウンセリングから。とにかくお腹をなんとかしたい、が私の希望だ。カウンセラーは食生活のパターンなどを聞きながら、私のお腹を押したり、お尻や膝上のお肉をつかんだりした。
「これは『セルライト』といいます。脂肪と老廃物が混ざって固まっています。長年かけて蓄積されたもので、運動やダイエットでは取れません。このセルライトを分解するのがこちら独自のマッサージなのです」

 ナルホド。

 早速水着になってジェットバスに二十分。何十箇所もの穴から気泡が吹き出し、運動したのと同じ効果がある。痩身効果の香りのオイルが注がれた温めのお湯、氷枕、窓から臨む神宮の森。気分爽快だ。夜は夜景が美しいらしい。贅沢なことだ。こんなに気持ちよく痩せられるなんて。

 休憩後、お腹とヒップのハンドマッサージが四十分間。驚いたのはその痛さ。
「これがセルライトなんです。はじめは痛いんですが、続けるうちに気持ち良くなります。」
とかなんとか説明されたが、拷問だった。それでも若干のサイズダウンに気持ちは救われた。

 続いてサウナ、ジャグジー、シャワーで終了。再びカウンセラーと感想や今後の話をし、店を後にした。

 新宿駅につくとお腹が痛くなってきた。池袋駅で吐き気が襲った。歩くのが辛い。今日はこの後飲み会があるというのになんて事だ。

 家に着くやいなやサロンに電話して症状を訴えた。
「紫色に腫れたりしていませんよね。それは筋肉に働きかけた、効果があったんです。」
本当に大丈夫なのか。苦しさに涙が出そうだ。

 飲み会には必死の思いで出掛けた。酒が一時痛みを麻痺させた。しかしサイズはもとのもくあみ、筋肉痛はその後三日続いた。

 

<了>

 

(1998.1)