「ノー」といえますか?
シモーヌ・オノ
課題「上司にたばこを買ってきてくれと言われて断る」
上司: 「タバコタバコ、ああタバコ吸いたい。ゴメン、悪いんだけどタバコ買ってきてくれる?」
  私: 「タバコの切れ目が禁煙時、今日はこれから1日きれいな空気というのはどうでしょう。」
上司: 「いやダメ、タバコ吸わないといい仕事できない。」
  私: 「タバコの煙で仕事がしにくくて困っちゃうの。ああ喉痛い。いっそのこと禁煙にして下さい。分煙でもいいから。」
上司:

「もう何でもいいからお願いだからタバコ買ってきてー。頼む。」

  私: 「今消したシケモク、まだ少し吸えますよ」

 女性のためのエンパワーメント講座なるものに参加してみた。「セクハラやお茶汲みの上手な断り方」を教えてくれるという。講師は労働問題専門の女性弁護士。キーワードはアサーティブアクション。過激な攻撃でもなく消極的な態度に終わらない、たとえ葛藤があったとしてもより良い関係を作るために「ノー」が言えるようになることを目指す。

 まずは二人組みになって、最初のテーマは「誰も休まない職場で有給休暇を取る」。私と組んだ女性は実際に、全く有給休暇を取れない会社をそれが理由で辞めたという。「『有給休暇を取れないなんておかしい、みんなで休みましょう』って職場のメンバーで話し合えばいいじゃないですか」と私が言ったら、それはとっても顰蹙を買う行動らしい。

 6人程度のグループを作っても私のやり方は攻撃的過ぎるとされた。最後に百人以上の出席者の意見をグループ毎に発表し合う。最も攻撃的なのは「有無を言わさず休む」、一番消極的なのは「諦めて休まない」という結果だった。

 講師は有給休暇は労働者の権利、権利は行使するものと説明してくれた。労働組合を作るのも一つのアサーティブアクションだというのだが、「組合を作るなんて攻撃的過ぎませんか」という質問が出た。「どうしても休むなら退職を覚悟して」という意見が少なからずあったのにも驚いた。私は素直に、私が勤めている会社はいい会社だと思った。

 1日目のメニューはそこまで、2日目は「ノー」と言う練習だ。1日目は女性しかいなかったが、今日は男性が何人かいる。

 講師からの状況設定。「部下であるあなたは課長を尊敬しています。課長が飲みに行こうと誘い、手を握る。方や腰に手を回してくる。残業中、首に息を吹きかけてくる。」講師によれば、これがセクハラなのかというと微妙らしい。課長の感情はどうでもよく、される方がいやだと思えばセクハラになる。

 参加者が上司役と部下役を演じ、うまい断り方を発表する。スケベ課長役の女性がなかなかリアルで笑えた。私の隣の男性は状況設定の説明中に「首(に息を吹きかける)かあ、耳じゃないのか…」と呟いた。

 この男性が次の「お茶汲みを断る」で爆弾発言。「お茶汲みは立派な仕事だ。誰がどの器でコーヒーなのか日本茶なのか、温度の好みは、砂糖ミルクの有無と量、出すタイミングも大事、これを完璧にやって当たり前、それをできないような会社は伸びない」と仰る。これには一斉に反論の手が挙がり「そんなことを仕事だなんて考えている会社こそ伸びない!」と総スカンにあってしまった。

 続いて冒頭の「職場の喫煙」についてと「残業を断る」という設定があって終了。2日間を通してわかったのはまだまだ理不尽なことを強いる会社環境というのがあって、悩んでいる人が多いということだ。発表を聞いていると上司を怒らせないように、お互い傷つかないように涙ぐましいまでの気の使いよう。

 「嫌です」「おかしいと思います」という気持ちは、表現しないまま我慢すると相手は不当な行為であると気づかない。自分の気持ちをわからせる、不快な行為をやめさせる、差別的行為だとはっきりさせるために拒否を表現することは非常に大事だ。正当な主張をするのに何の遠慮がいるものか。

 ところで最後に言われるまで気付かなかったのだが、誰もがそう設定されたわけでもないのに「上司=男性」という前提でロールプレイをしていた。自分の固定観念の強さにハッとさせられた。

(1996.12)