続・査定Dの衝撃
シモーヌ・オノ

某月某日 明日は昇格試験だというのに飲み会。先輩は「お前は落ちる。賭けてもいい」と言う。

某月某日 昇格試験。受験人数の多さに圧倒される。連立方程式問題が無茶苦茶な答えになり焦る。論文問題は時間不足。「もう終わり、やめて下さい」と言われて周りを見れば、皆退席し始めている。激しい頭痛に知恵熱かと思ったが、どうも二日酔い。

某月某日 ボーナス支給。上司が「部署から一人でも多くの昇格者が出るように、最高点をつける」と宣言したのに査定はC。

某月某日 人事から「一次選考の結果、二次選考へお進みいただくことができませんでした」という知らせが届く。「ご不明な点がございましたら、人事部人事グループまでお越し下さい」とのこと。

某月某日 上司が「残念だったね。まあ、しゃーないか。」と声を掛けてくれる。

某月某日 人事に行く前に上司と話す。
「夏の査定について話したときは『普通に評価する』と言ってくれたのに、なぜC(不満がある)なのですか。」
「Cは普通だよ」の言葉に驚く。
「Cはおかしいのではと言われるのは心外。公正に評価した。」
「理由を聞いているだけです。何が足りないのか、どうすれば良いのか指導して下さい。」

 この件は後日改めて話をすることになった。
「いきなりAをつけるわけにはいかない。部内のバランスもある。」
「査定は絶対評価ですよね。バランスは人事が調整するのではないですか。」
「人事が上司と違う評価をしたり、その辺のカラクリは人事は秘密主義。」
「上司はBにしたけれど人事がCをつけてきた、何故か解らない、なら上司と面談する意味はあるのでしょうか。人事制度が変わってそこはオープンになるのですか。」
これについては「人事に聞いてみたら」とのお言葉。

某月某日 「不明な点」を伺いに人事に行く。
「筆記、論文共に合格圏内だったが、前提条件の年2回の査定が基準に足りなかった。『かわいそう』という意見もあったが、検討の結果『皆Dだということを知っているので』たとえ満点を取ったとしても駄目だった。」

 初めから資格が無かったということか、皆が知らなければ違う結果になったということだろうか。皆というのは誰のことだろう。知っている人が言いふらしているのか。

 上司と話したときの疑問も合わせて聞いてみた。
「考課者訓練では評価がどういうランク分けになっているとか、普通=Bといったことは教わらないのですか。C=普通と認識している人がつけたCは正しい評価と言えるのでしょうか。」
「考課者訓練は考課者による評価のバラツキを無くす為にやっている。もちろんランク分けなどは基本だが、点数でつけているので。今回上司の評価はB。」
「上司は、評価を教えたことを人事に怒られたと言っていましたが。」
「上司の評価はBだが、調整の結果Cになったとかは言ってほしくない。確定してない段階の話だから。」
前回も今回も人事が上司の評価を教えてくれた。直接上司が言うのはいけないのだろうか。

 「過去2年間の査定が前提となるならば、来年も駄目だということですか。」
「来年査定が良ければ可能性はある。普段見えない部分の能力はあるが、J(ジュニア)層は日々の業務、態度が重視されるから。業務をきちんとやること。お茶を入れるとか積極的に飲みに行くとかそういう『傾向と対策』では困る。」
「そんな会社にも自分にとってもマイナスになることをするつもりはありません」
「酒の席で話すのはいいけど、何もかもを白日の下に晒すのはどうかと思う。」
これは「査定Dの衝撃」を書いたことへの言及だろう。

 「何か言われたりしない?」
「何かってどのようなことでしょうか。書こうと思って資料にする為に聞いているのではありません。なぜ駄目だったか、どうすればいいのかを知りたいのです。」
「仕事を一緒にしたことがないからよくわからないけど、研修の講師等の話を聞くと会社の目指す方向とズレがあるのでは。」
「そんなふうには感じていません。会社も仕事も好きです。」
「あのことがあって以来積極的になったと思う、真実を追求する姿勢はいいと思う。」
「ありがとうございます。」
「追求したって、それが君のタメになるとも限らない。書き続けるの?『女の道』だね。」

某月某日 年末大掃除の後、ビールとお摘みでミニ打ち上げ。いろいろあってエキサイティングだけれど、哀愁の年でもあったと一年を振り返る。

某月某日 上司と不満な点について話す。
「点数が低いのは『協調性』と『サービス応対』。思ったことを素直に口にするのはいいが、言葉の与える影響を考えるべき。具体的には4月の飲み会での言動。」
「飲み会は就業時間外で、会費制で、強制参加でもないし、給料は支払われていないし仕事ではありません。業務時間以外は評価の対象にならない筈です。」

 夏の査定の後に上司とその飲み会のことを話したときは注意されていない。それに冬の査定の対象期間は5月からではないのか。
「あの飲み会は業務である。仕事以外は何を言おうと、しようと、評価の対象ではない。自分も会社生活で我慢していることはある。『わかりました』と言っていればいいのだ。」
「私は自分の発言に責任持っています。仕事に悪影響があってはいけないと思いますが、言葉をどうとるかは受け取り側の能力もあるのではないでしょうか。何をどう我慢するかは自分で考えます。」

 「『サービス応対』は電話や接客についてではなく、身嗜み」
「自分で気に入っていて、喜んでくれる、褒めてくれる人も多いのに、仕事に相応しくないというなら、その仕事が私に相応しくないのでは、とも思います。仕事が嫌いなわけではないし、やる気はありますが。」
「合わないと思っても経験になる。自分もかつて上司に『洗脳してやる』と言われて頭に来たことがある。変わらないところもあるが、洗脳された部分もある。」
「人事が上司の評価はBだったと言ってました。」
「そうだろ、だから『普通に評価した』と言ったんだ。」

某月某日 タイムカードの件で上司に注意を受ける。
「年末大掃除の日にオーバータイムがあるけど、皆で飲んでただけだろう。」
「先日飲み会は仕事だとおっしゃったじゃないですか。」
就業時間中から飲み始めたし、会費は払っていないし、仕事場で飲んだ。
「そんなこと言ったっけ?それならその時『これは仕事か』と確認するべき。強制ではないし、他の誰もオーバータイムにしていない。」

某月某日 書くつもりはありません、と言っておきながらやはり書くべきではないかと悩み始める。「査定Dの衝撃」では「昇格にどう影響するのか聞き忘れてしまった」のだから、結果が出たからには報告した方がいいのではないか。しんどそうだが、他人は結構楽しんでいて、応援してくれる人もいる。しかし、人事、上司はどう思うだろう。「私のタメにならない」ことが起こるのだろうか。

某月某日 決めた。これもコミュニケーションである。人事も「書くなら正確に書いてね」と言ってくれた。これをエールと受け止め、勇気を出そう。

 小学校2年生の時に教頭先生の発言に抗議しようと「先生この前、…と言ったでしょう。」と口にするなり、「えい、うるさい、あっちへ行け」と言われたことは今でも忘れない。そんな人間と比較しては失礼だが、上司はいい人である。理屈っぽくてしつこい私の言うことに真剣に向き合ってくれる優しい人だ。

 査定の重みを改めて思い知ったが、自分の行動は決して後悔していない。是が非でも昇格したい、そのためだったら何でもするというつもりはないし、できっこない。話し合いを重ねて「傾向」は見えてきた。人事で言われた通り、日々の業務をきちんとすることが私にできる「対策」だろう。
(1996.3)