こぶとり物語−子宮筋腫、私の場合 1
患者番号93864

昨年夏、激しい腹痛で近所の内科に駆け込んだ。薬をもらったが全く効かない。次の日婦人科に行ったら、女性医師に「うちには超音波(画像診断)が無いから」と数駅離れた婦人科を紹介された。

 「そこの先生は女性ですか?」「男の先生。大丈夫よ、お年だから」。私はいつも女性医師の婦人科を選んでいた。しかしこの時は言われるまま、痛むお腹を抱えてとにかくその病院に向かった。

 全然大丈夫ではなかった。確かに高齢の男性医師は同じ事を何度も聞く。初めて、しかも男性に内診(膣に指を入れる)され、最悪の気分だった。

 超音波画像を見ながら説明を受ける。「子宮があれていますね」。血液検査の結果、炎症を起こしているとのこと。薬をもらっていくらか楽になった。

 

 ところが処方箋と違う薬の量のためか(薬局には処方箋通りのサイズの錠剤が無かった)、足がパンパンにむくんだ。4日経って薬が切れたら、ようやくむくみが引いてきた。

 おじいさん先生は「むくみと薬は関係ありません、重力の関係でしょう」と言う。断っているのに「内診しましょう」。「子宮内膜症」という病名を通院3回目に初めて聞いた。「何故そうなるんですか?」「わかりませんねえ、何か無理をしましたか?」。

 クソボケ老人。とっとと引退しろ。(失礼、不健全な身体には不健全な魂が宿るのです。)

 その後もこのときほど激しくないが、たまに下腹に痛みを感じる。恋人は「ちゃんとした病院で診てもらえ」と言う。私は大学病院は気が進まなかった。紹介無しだと何千円もの初診料がかかる。長い待ち時間、男性医師、しかも大勢。だけど理想の病院・医師をいろいろ探して試すのは、時間がかかるし大変だ。

 母につては無いかと相談すると「お腹が痛いだけではねえ。また今の病院に行ってみれば?」ボケてるっちゅーの!殺す気か。

 結局大学病院に行った。しかし予想を越える長い待ち時間、ずらっと並んだ内診台、話が筒抜けの診察室と待合室に、気が滅入る。

 内診する医師はカーテンの向こうで、ドイツ語なのか「ノルマルグロス…」などと意味の分からない言葉を、一体誰に向かって発しているのか。

 超音波診断によると7pの子宮筋腫があるという。「子宮筋腫だったのか」。女性の4、5人に一人は抱えている病気、私にはその程度の知識しかなかった。

 それより、呆れたのは、おじいさん医院でも同じ超音波で診たのに、こんなに大きいのに見逃されたこと。

 更に詳しい検査(MRI:体を輪切りにした磁力画像診断)の結果筋腫は9cm大。他にも2,3cmのものが数個。子宮ガン検査も必要とのこと。

 さて、どうするか。医師の話では、子宮筋腫の原因は解明されていないらしい。このままにすると大きくなって数が増えるかもしれない。妊娠しにくい。妊娠できたとしても切迫流産の可能性が高い。ホルモン治療なら筋腫は一時小さくなるが、また戻るだろう。出産を望むなら、子宮をとる手術は避けたい。筋腫だけをとる手術もできるが、再発の可能性は残る。

 私は子宮筋腫に関する本を読み、インターネットで調べ、体験者の会を訪ねてみた。そして子宮筋腫の症状と治療法が本当に様々であることを知った。

 子宮筋腫とは子宮にできる良性のコブ。たとえ大きくても、症状がなければ何もしなくてもいい。子宮をとってしまえばもちろん症状は消える。一方壮絶な症状に長年苦しみながら、子宮摘出をなんとしても避ける方法もある。

 しかし私にとって何が最適なのか、わからない。20年程前、手術の必要が無い多くの健康な子宮や卵巣を摘出した「富士見産婦人科病院事件」のことも思い出した。(この病院は名前を変えて今も開業している)

 私は翌年春まで考えた末、子宮筋腫核出手術(コブだけをとる)を決意した。

 

(2000.12)
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